マケットとトルソ2006年11月25日 12:55

 先日ロダン美術展に行った時に、「マケット」や「トルソ」の表記が多く見られたが、意味が判らずにいた。そこでいつもながらの好奇心、早速調べてみました。
 まず「マケット」とは模型の意味です。彫刻の中でも野外彫刻など大作は、実物を作るのには多くの制作費と時間がかかる、そこで例えばコンペ(競作)では数分の1に縮尺された作品が作られそれで審査されることになる。従って同じ作品でも縮尺の違いでいくつもの「マケット」が存在することになり、いずれも本物で「レプリカ(複製)」とは異なる。
 またアニメの世界ではアニメーターがアニメ作製に参考にするキャラクターを立体化したモデルのことをいう。ちなみに「フィギュア(塑像)」の世界では精密で高価な観賞用フィギュアを特に「スタチュー」と呼んで区別しているがその用途の違ったものと考えてもらえばよい。
 次に「トルソ」とはイタリア語で「胴体」の意味で頭や手足などを欠いた胴体を中心に作られた像のことを指す。元来は、古代の全身像の頭や手足が破損欠落した作品や、制作途中で放棄された未完成の作品等を「トルソ」と言っていましたが、19世紀以降では意図的に人体の量感や肉付けを集中的に表現する題材として、多くの彫刻家によって制作されています。効果として『あるべき部分が失われている状態は人間心理に不安を与えると同時に、無意識的に人間が脳内でそれを補完するため、作者の思案を超えた美的効果を醸し出す。また見るものが想像し、欠如部分が補完された彫像は、その後にいかなる物理的完成を以ってしても、想像の産物を超越することが不可能な物となる。』といわれている。代表的な例としては両腕を失っている「ミロのヴィーナス」や頭や腕のない「サモトラケのニケ」が知られている。最初「トルソ」は未完全なもの、未完成なものとして修復や完成が求められていましたが次第にこの「トルソ」の未完全さがもたらす美が認められだし、それを一つのジャンルとして昇華させたのがロダンだったのです。
 ところで「トルソ」はダンスの世界でも使われていてクラッシックバレーでは踊る時このトルソの部分が非常に重要になります。骨盤の両端と両肩を結んだ長方形を形を崩さないようにピント張ったまま維持しなければなりません。
 また、裸体の塊を鑑賞する舞踏もこの「トルソ」すなわち中身のない形式、純粋にフォルム(形式、外見)だけで造形行為をしようとする思想に基づいています。だから文脈もない人間の体、物語のない舞踊作品、ひたすらに運動体を見るだけ、が芸術として存在できるのです。
 一つの言葉が大きな広がりを見せてくれる。皆様、言葉に「はてな」を抱きましょう!